こんにちは。司法書士の粒来です。
ここまで連載でお送りしていた相続○✕も、今回が最終問題です。
今までの知識の総まとめのつもりで、取り組んでいただければ幸いです。
前回記事の経緯から、これまでのクイズの結果をふまえて回答しても、ろくなことにならないのはお察しかもしれませんが、一応、前回の知識のおさらいをします。
亡くなった人の子どもが相続放棄をした場合、孫は相続人にならないので、孫が自分も相続放棄をする必要はない。
では、問題です。
- 第5問(超上級)
妻も子もいない人が、若くして多額の負債を抱え死亡した。相続人にあたる父母が相続放棄をした場合、父母の両親(亡くなった人の祖父母)が借金の相続を避けるためには、自らも相続放棄をする必要がある。○か✕か。 - 正解は、○です!なんと、今度は前回記事の第4問とは逆の結論が正解になります∑( ̄ロ ̄|||)もう訳がわからないですね。
なぜこのような違いが生じるかの答えは、亡くなった人の祖父母が相続人になる根拠と、亡くなった人の孫が相続人になる根拠の条文の、表現の違いにあります。
長文かつ退屈になるのは分かりきっていますが、いちおう司法書士のブログなので、詳しく解説したいと思います。
相続人になる人の範囲を規定した民法887条、889条は、次のような規定になっています。
被相続人の子は、相続人となる。
(以下省略)
次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
(以下省略)
注目していただきたいのは、889条では「直系尊属」(←親に限らず、祖父母、曾祖父母など、直系かつ目上の親族をすべて含む)となっているのに対し、887条では直系卑属(子に限らず、孫、ひ孫以降を含む)ではなく、「子」(←孫以降は含まない)となっているところです。
第4問で説明しましたが、被相続人の孫は本来、相続人の地位(順位)をもっていません。子に死亡・相続欠格・廃除があったときにだけ、「代襲相続」という特別なルールによって、例外的に相続の権利を与えられます。
そして、子が相続放棄をしたときは、その特別ルールの適用がありません。
一方、被相続人の祖父母は、そのような特別ルールではなく、民法889条によって直接、相続人の地位(順位)があります。
そのため、自分よりも親等の近い者(亡くなった人の父母)がいなければ、必然的に相続人になります。
父母の相続放棄があると、父母は最初からいなかったと考えるため(前回記事の【知識3】)、祖父母は相続人になり、孫の権利や義務を受け継ぎます。
そうすると、今回、祖父母が孫の借金の相続を避けるためには、自分も相続放棄をする必要がある、という結論になるのです。
ここまでの作文で疲れたので、だいぶ説明をはしょりましたが、ご理解いただけましたでしょうか。
さて、これまでの相続クイズを通じて、私が一体何をお伝えしたかったかというと、相続、特に相続放棄において、中途半端な知識は命取りになるということです。
(途中、意地の悪い出題をしたことに対する言い訳ではありません)
相続放棄は、自分が相続人であることを知ったときから3ヶ月以内という短い期間に行わなければならず、かつ、一度相続放棄をする、またはそのチャンスを逃すと、やり直しやキャンセルは一切できません。
裁判所に出す申述書の薄っぺらさ(A4用紙2枚)に驚かれることのある相続放棄の手続ですが、一見ただの紙切れに見えるその申述書には、これまでのクイズで触れたようなややこしい法律知識が、みっちりと詰まっている、こともあります。
ということで、この記事をお読みいただいている皆さん、特に前回と今回の出題でうっかり引っかかってしまった方、相続やその放棄の問題に直面した際は必ず当事務所にご相談いただければ幸いです。