相続放棄の思わぬ落とし穴(後編)

こんにちは。司法書士の粒来です。

前回記事に続き、相続放棄の注意点についてご紹介します。

相続放棄の注意点

「亡くなった夫には自宅不動産とともに借金がある。不動産も借金も妻である自分が引き継ぐことにしたが、万一にも亡夫の借金のことでひとりっ子の息子には迷惑をかけたくない。そこで、遺産分割協議でなく、息子に相続放棄をしてもらうことにした。」

この場合に息子さんが相続放棄をすると、一体どうなるのか。

前回記事では、相続放棄をすると、被相続人との関係で「最初からその人が存在しなかった」ことになると説明しました。

そうすると、今回、ひとりっ子の息子さんが相続放棄をすると、亡くなったご主人には「財産を相続すべきお子さんが、もともといなかった」ことになります。

つまり、今回の相続は「お子さんのいない夫婦」と同じ取り扱いになります。

法律上、お子さんがいる夫婦の場合、相続人の範囲は「配偶者と子」です。

では、お子さんがいない夫婦の場合、残った配偶者だけが相続人になるかというと、実はそうではありません。この場合、「被相続人の直系尊属(親など)」または「被相続人の兄弟姉妹」が、お子さんに代わり、繰り上がって相続人になるのです。

今回、被相続人の奥さんは、プラスもマイナスも、被相続人の財産はすべて自分に集約させようと考えていました。しかし、そのために息子さんの相続放棄という選択をしてしまうと、相続財産を集約させるどころか、息子さんより関係が希薄なことの多い、ご主人の親御さんやご兄弟を相続関係に巻き込むことになってしまうのです。

これで新たに相続人になった人達が皆さん元気で協力的であればまだ救いがありますが、折り合いの悪い方や認知症の方がいて、とても相続について話し合える状況ではなかったらどうなってしまうでしょうか。

最悪の場合、不動産の名義変更はできず、債権者はご主人の親御さんやご兄弟相手に取り立てを始めるという、当初の思惑とは真逆の結果を招いてしまうことになります。

相続放棄を検討する際は、3か月という短い熟慮期間もあいまって、どうしても亡くなった方の財産や負債の状況ばかりに目が行きがちです。

しかし、財産ばかりに気を取られて相続関係の検討を怠ると、今回のような落とし穴にはまってしまうことがあるので、注意が必要です。

ということで、今回は相続放棄の注意点についてご紹介しました。いかがでしたでしょうか。

「生兵法はケガの元。やっぱり相続は司法書士に依頼しよう!」と思っていただけたら幸いです。

次回以降も皆様のためになる相続の知識をご紹介していきたいと思います。

お楽しみにお待ちください!