その遺言で大丈夫ですか?

こんばんは、高井です。

相続の相談を受けていると、3年くらい前から、遺言に関する相談が増えているように感じます。

相談者のお話をきいていると、自分の親の相続のときに相続トラブルを経験された方もおり、自分が亡くなったときの相続手続の際には、自分の子供たちには相続のことで迷惑をかけたくないという理由から遺言を作ろうと考えた方もいらっしゃいました。

また、知人の遺産トラブルの話を見聞きした方も、予防策として遺言書の作成を検討されたという方もいらっしゃいました。

このようなこともあり、事前の相続対策の必要性を感じ、遺言を作ろうと考える方が増えてきているのではないかと思います。

では、遺言を書いておけば、それで相続対策としては万全で、安心できるのでしょうか?

過去に持ち込まれた遺言

過去に当事務所に持ち込まれた遺言で、このような手書きの遺言がありました。

「私の土地建物等一切を〇〇〇〇に譲渡する」

遺言自体は、全文・日付・氏名が遺言者により自書されており、印鑑も押されていたため、自筆証書遺言の形式を満たした有効な遺言書です。

検認期日では、相続人から特に意見も出なかったため、遺言自体が無効になるという心配もありませんでした。

ただし、この遺言書は、受遺者(=財産を受け取る人)が相続人以外の方で、遺言書に受遺者の名前しか書かれていませんでした。

管轄の法務局にこの遺言書を持っていくと、受遺者の名前しか書いていないので、受遺者の特定が不十分のため、登記はできないと言われました。

つまり、こういうことです。

例えば、「高井和馬」という同姓同名の人物は、日本全国に何人もいる可能性があります。遺言に書いてある「高井和馬」と、登記申請人の「高井和馬」が同一人物なのか、この遺言の記載だけでは特定ができないため、登記はできないということなのです。

遺言の記載が、「甥の高井和馬」とか、「高井和馬(住所:札幌市北区北32条西4丁目1番7号)」というように、もう少し特定がされていれば、問題が無かったのです。

また、遺言書に名前しか書いていない場合でも、受遺者の名前が、被相続人(遺言者)の戸籍の中に出てくれば、特定をできたのかもしれませんが、今回は、先に亡くなった妻の甥のため、遺言者の戸籍をとっても名前が出てきません。

この事案では、どのように手続きを進めようか悩みました。

遺言者の相続人全員から印鑑をもらい、誰かに代表して相続してもらい、その方から遺言の受遺者に贈与してもらうのがよいのか・・・

しかし、このケースでは、兄弟姉妹が相続人であり、かつ、甥・姪にまで代襲相続や数次相続が発生していたため、20人以上の相続人が全国各地にいました。

とても、全員からハンコを集めるのは難しく、しかも、奥さんの側の甥に贈与してもらうなど、現実的ではないと考えました。

そこで、遺言執行者を被告に裁判を起こして、判決文をもとに登記申請をしようかとも検討しました。

ところが、管轄の法務局に登記の打ち合わせに何度も足をはこぶ中で、他の書類とあわせて遺言書を読むと、なんとか受遺者を特定できるということで、登記申請をすることができました。

このケースでは、時間はかかりましたが、無事に遺言のとおり登記手続を完了することができて、ほっとしています。

このように、遺言の内容が不明確だと、場合によっては、特定性が不十分で執行不能になることがあるので、注意が必要です。

当然のことですが、ご本人が亡くなった後には、遺言の内容を説明することはできません。

したがって、遺言書を残すときは、誰が読んでも一通りの解釈しかできない遺言を作ることが重要となります。