こんにちは。司法書士の粒来です。
今回のコラムでは、「民事信託」の制度についてご紹介します。
皆さんは「民事信託」をご存知でしょうか。
ますます社会の高齢化が進み、「終活」など生前からの相続対策に注目が集まっていますが、遺言や成年後見の制度が普及するにつれ、その構造的な弱点や限界も明るみに出てきました。
遺言では、自分が決められるのは自分が亡くなった時の財産の承継方法だけで、その後に財産を引き継いだ方が亡くなった時のことまでは指定できません。そのため、例えば先祖代々の土地を自分の親族に連綿と受け継いでもらいたいと考えていたとしても、相続関係によっては必ずしもそれを実現できるとは限りませんでした。
また、成年後見では、本人(被後見人)の財産を他人のために使ったり、リスクのある運用の仕方をすることは原則的に許されません。そのため、本人がいくら自分の財産を家族のために使いたい(あるいは遺したい)、そのために自分の財産を積極的に活用したいと考えていたとしても、ひとたび本人の判断能力が減退し、後見が開始してしまうと、その後の本人財産の使いみちは非常に限定的なものにならざるを得ませんでした。
どのような制度かというと、まず、本来はあらゆる権利を一緒くたに内包している「所有権」(物を所有している人がもつ、その物を好きにしていい権利)を、法律上、「その物を管理・処分する権利」と「その物から利益を受ける権利」の2つに分けてしまいます。
そのうえで、「管理・処分する権利」だけを信頼できる第三者に託し、その管理・処分の結果発生した利益は、別に指定する「利益を受ける権利」を持つ方が受け取ることにするという制度です。
「管理・処分する権利」を託される第三者(=受託者)は、もとの所有者(=委託者)との間で、その物(=信託財産)を自分のためでなく、「利益を受ける権利」をもつ人(=受益者)のために管理・処分するという固い約束(=信託契約)をします。
これにより信託財産は、委託者の手は離れますが、かといって純粋な受託者の財産でもない、いわば宙ぶらりんの財産という特殊な状況に置かれます。
その結果、その後に委託者が亡くなったとしても、信託財産は当然に委託者の相続人に承継されるものではなくなります。信託契約の中で、最初の受益者が死亡した時に備えて二次的・三次的な受益者まで決めておけば、遺言では実現できなかった、自分の財産を引き継いだ方が亡くなった後の、連続的な財産の帰趨まで指定できるようになります。
また、認知症等で委託者の判断能力が衰えてしまっても、信託財産を管理・処分する権限は既に受託者に移っていますので、受託者が元気でいる限り、受託者が信託契約の内容に従って(たとえそれが委託者の家族のためや、積極的でリスクを伴う運用方法だったとしても問題なく)信託財産の管理・処分の方法を決めていくことができます。
いかがでしょうか。実に画期的な制度だとは思いませんか!?
と、ここまで根気強くお読みいただいた方はお察しかもしれませんが、この制度、すごく分かりにくいのが難点です。
今までの常識にとらわれない画期的な解決方法であるがゆえに、そこで使われる考え方もまた、今までの常識から離れた、非常になじみの薄い分かりづらいものになっています。
しかし、今までの制度の不都合を解消できる以上、需要は必ずあるはずで、そういう分かりにくいのと引き換えにメリットの大きいサービスというのは、まさに専門家の腕の見せ所ではないかと思っています。
ただ、分かりにくいのは私にとっても同じなので、自分の準備不足から依頼者の方のニーズに応えられないなんてことになったら目も当てられません。
司法書士になってもうすぐ12年ですが、これからもずっと地道な勉強の日々が続きそうです。
民事信託について興味がおありの方は、ぜひ当事務所までご相談ください!